忠臣蔵はテロです、が…… 1

市川崑に『四十七人の刺客』という作品がありました。たしか池宮彰一郎原作です。この映画はよくできていて、映像もすごく美しい。ポイントは忠臣蔵にまとわりつく叙情性を排除して、あだ討ちが非常に綿密な計画に基づいて遂行される過程を忠実に追っているところです。その意味で、この物語はきわめて現代的です。
すでに大石たちは一介の浪人なわけですから、これは制度的に認められていない暴力、すなわちテロリズムです。江戸時代と現代では違うところも多いものの、テロが発生する構図はそれなりに似ているようにも思います。塩はいまで言うところの石油です。実際の状況判断の場において大義名分が重要視される点もいっしょ。でも最も印象的なのは、最後の場面で大石が「実際に何があったかどうかなんて、もうどうでもいいんじゃい!」とぶっちゃけて、恐れおののく無抵抗の老人(上野介)を斬殺するという場面です。美しさが際立っていた画面のなかで淡々と状況を見つめていた大石が、突如暴力性をむき出しにして上野介に襲いかかり、首を狩ります。大量の鮮血が飛び散るシーンは、それまでの静寂とは対照的であることが十分に強調されます。それまで非常に緻密に計算し計画を進めていた大石と、暴力的な大石。この対照性がおそらく大石のなかにある虚しさを表現しているのでしょう。